ビデオ鑑賞 「痴呆ケア 本人が語る心の世界」

施設長 相原あや子

   前々回のルンビニーだよりで「私は誰になっていくの?」の紹介をしました。その本の著者、クリスティーン・ブライデン(ボーデン)さんが昨年10月に来日され、その時の様子がNHKの2つの番組(「生活ほっとモーニング」と「クローズアップ現代」)で紹介されました。その内の『生活ほっとモーニング「痴呆ケア 本人が語る心の世界」』のビデオを勉強会の教材としてスタッフみんなで鑑賞しました。

  番組の中では、クリスティーンさんの日本での滞在の様子や彼女の語る心の内、そして夫ポールさんのケアパートナーとしての寄り添いが紹介され、著書とはまた違った形でクリスティーンさんの世界を知ることができました。また、番組にはNHK解説委員の小宮英美氏と高齢者痴呆介護研究・研修東京センター長の長谷川和夫氏も出演され、お二人のコメントにより、クリスティーンさんの世界をより深く理解することができました。長谷川氏は、日本では現在全国で3ヶ所痴呆介護の指導者研修を行っていることを紹介され、国を挙げて痴呆介護のレベルアップに取り組んでいる事に心強く思いました。

  小宮氏は、ケアパートナーは家族だけではなく、グル-プホームのスタッフ、介護の専門職、医師など痴呆の方の周辺にいる者誰でも成りうることを熱く語られ、私たちグループホームの現場もまた、入居者お一人お一人の心の世界を読み取りながらのケアの実践を日々積み重ねていくことの重要性を再認識しました。

  以下にビデオを鑑賞してのスタッフの感想を記させていただきます。
【 Hスタッフ 女性 52才 】
  私がまだ幼い頃、一緒に暮らしていた明治生まれの祖父が痴呆でした。当時それがアルツハイマーかどうか分からなかったのですが、毎日介護に追われていた母の姿を鮮明に覚えています。今のような福祉用品がない時代、祖母が健在していたとはいえ人並みの苦労ではなかっただろうと今になって察せられます。

  先日クリスティーン・ブライデンさんの著書を乱読ですが読むことができました。彼女にとって夫ポールさんと宗教(キリスト教)はとても大きな支えになっていたようです。人は一人では生きていけない。支え支えられ生きていけるのだと。彼女はすばらしいケアパートナー(家族)に支えられています。彼女の努力ももちろんですが。その原点は「愛」、まさに「愛をもって介護」そのものです。

  痴呆の進んだ祖父がある日、「家に帰りたい、家に帰りたい」と泣きました。そばにいた当時小学校の高学年だった姉が、その祖父をリヤカーに乗せ家の周囲を一周し、「家に着いたよ」と祖父をとても喜ばせました。この原点も「愛」。

  それに少しでも近づくことができればと思う日々です。
【 Hスタッフ 女性 22才 】
  クリスティーン・ブライデンさんのビデオを観てまず驚いたことは、アルツハイマー型痴呆症だと診断された方が、自分の経験や想いを語っているということです。そしてアツルハイマーの方がどのような事を考え、どう想っているのか世界中の人たちに伝えて回っているということに、すごく驚かされました。

  まず、クリスティーンさんはうるさい所を嫌がるということです。痴呆の方が大きな音などを嫌がるという事は知っていたけれど、あそこまで恐がるクリスティーンさんを見て、「あぁ、本当なんだ。ルンビニー内でも音に敏感な人はいっぱいいるから気を付けなければ・・」と本当に実感させられました。また、音楽も人によっては逆効果になり、ストレスになってしまうんだという事が分かりました。

  クリスティーンさんがビデオの中で最も多く口に出した言葉が、『不安なのです』という言葉でした。痴呆の方は常に不安の中で混乱しているのだという言葉がすごく印象に残りました。そして、その不安を取り除き、安心して生活していけるようクリスティーンさんを支えているのがポールさんでした。ポールさんはクリスティーンさんの講演が終わったら、「良かったよ」と安心できる言葉がけをし、欠落した所にヒントを出して残された記憶力を最大限に引き出していました。そうすることでクリスティーンさんも安心して生活できているのだと思いました。 そしてもう一つ印象に残っていることが、痴呆の人は自分の想いを言葉にうまく出せないため、イヤな事を「イヤだ!」と言えない。でも、相手には伝わらないためイヤな事をさせられる。でもイヤだからそれが言葉ではなく行動・暴力になってしまうんだという事を聞き、「あぁ、そうか!」と気付かされました。この人は暴力をすぐ振るうから〜と決め付けてしまわず、なぜ暴力を振るうのか、どうしてそういう行動をとるのかを考えなければならないという事を改めて納得させられました。妄想・徘徊・暴力といった周辺症状はこちら側のケアの仕方によって増強したりも軽減したりもするんだという事が分かりました。

  『痴呆が進んでも自分らしく生きられる』 すごく大切な言葉だと思います。痴呆症になっても記憶は完全に消え去ったのではなく、楽しい美しいと思うことができるのだという事を頭におき、ルンビニーの一人一人にとって良い”ケアパートナー”となれるといいなと思いました。
【 Aスタッフ 女性 31才 】
  未熟な経験の中で「良い介護とは・・・」と模索していた私にとって、多くを感じるビデオでした。

  「不適切なケアをするとスタッフそのものが不穏の要因となり得ること」は日々感じてはいましたが、「今の対応は不適切であった」と自覚はできても、「では、どうすればよかったのか・・・」となると、私の限られた知識と経験だけでは到底対応しきれず、「壁」にぶつかったままの日々でした。

  また、痴呆による中核症状はどんなに「良い介護」をしても治療はできず、痴呆そのものが治せない限り、痴呆の方の平穏はありえないのでは・・・と考えていた私にとって、クリスティーンさんの存在はとても衝撃的でした。
  痴呆という病に侵された方の心の声や不安の大きさを知る度に、自分の無力さを感じ、ただやりきれなさを感じているだけでしたが、こんな私にも出来ることがあるのではと感じさせてくれるビデオでした。

  ポールさんという最良のケアパートナーが側に居るクリスティーンさんも、不安が何も無いわけではありませんが、不安を抱きながらも前向きに生きている姿を見て、不安を全て取り除けるのが最良のケアパートナーなのではなく、不安を抱えていてもそれでも前向きに生きていられるよう支えるのが私の目指す介護員の姿なのかもしれないと感じました。
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