みんなでお花見に行こう

ルンビニー 介護職員

  「えっ、私も連れていってくれるん」 そう言ったのは毎日食事、入浴以外は、ほとんどベッド上で寝たきりの生活を送っているN.Sさんでした。

  「もちろん、みんなでお花見に行きますよ。」

  このユニットは重度な方が多いのですが、計画当初から入居者さん9名全員でお花見に行こうと考えていた私は、まったく普段の会話に支障のないN.Sさんに、1週間くらい前から話をしていました。

  N.Sさん以外にもK.Mさんにも話していましたが、以前外出時に足を捻挫した事が原因で、それ以後外出を拒否する事が多くなりました。今回も頑なに拒み続け、お花見当日の朝までは首をたてに振りませんでした。しかしスタッフの熱い説得に負けたのか、出かける前は居室で帽子をかぶり、コートを着て、ふだん履かない靴下を履いて待っていました。それを見て”やったー”と胸をなでおろしました。不穏状態が続いているN.Aさんにはお花見の当日に「お花見に行くかな」と声をかけると、「行くいく」と笑顔で即答、大変乗り気でした。

  あとの方にもそれぞれ声をかけていました。問題なのは、当日のスタッフの数とお天気のことでした。夜勤明け、休みのスタッフと当日のスタッフ全員で8名、家族さん1名、前もってお願いしていたボランティアさん1名が揃いました。よしこれで1対1の対応ができると思いました。そして当日のお天気はというと、前日の夜激しい雨が降りましたが、朝は素晴らしい青空、風もなく暖かい絶好のお花見日和でした。

 

  総勢19名が4台の車に分乗していざ出発。当初予定していた成願寺から松山総合公園に駐車場の関係で場所を変更しましたが、到着と同時に驚いたのは人と車がなんと多いことでした。駐車場は満杯でスペースがないので、しばらく空くのを待っていました。幸いなことに私たちは午後からの外出だったので、午前から来ていた人たちが少しづつ帰られて運よく車4台駐車することができました。

  さあ、それからがまた大変、200mくらいあるスロープを車椅子に入居者さんと一緒に目的地の広場まで押して上がっていかなくてはならないのです。なんとか全員協力して広場に到着しましたが、1人Y.Sさんだけが歩行は大丈夫であろうと思って車椅子なしで広場まで同行の私と一緒に歩きました。(計画では車で広場まで許可を取れば上がってよいと言われましたが、車は一旦元に戻り駐車場におかなくてはいけないということで、仕方なくみんなで頑張ろうということになりました。) Y.SさんはN.Aさんの手押し車を借りて一生懸命歩きました。途中足をとめて、「おばちゃん、桜きれいに咲いとるなぁ」「きれいやなぁ」顔がほころんでいました。全員7、8分咲きの桜を見ながら記念写真を撮ったり、お菓子を食べたりと、笑顔がいっぱい。久しぶりに外気に触れながら、季節感を味わっていただきました。
 プリンが大好きなS.Iさんは同行の娘さんの介助で大きく口を開け、パクパクと平らげる。普段は目を閉じていることが多いO.Kさん、今日は目はパッチリと開いて「きれいですね」の問いかけに「ハイ、きれいです」と、これまた笑顔で答えられる。

 歌が大好きなK.Mさん、スタッフが「さくらさくら」と歌い始めると一緒に「さくらさくら」と歌いだす。唯一男性のK.Sさん、「おとうさん桜の下で一杯やるかな」 「えへへへ」と嬉しそうな表情をしながら答える。

 当日の朝まで行かないと言っていたK.Mさん、「来てよかったろう」に、「うん、よかった」本当に嬉しそうに答えられる。

 

  たとえ一時でもその瞬間に喜びや嬉しさを感じ取って頂ければそれでいいのではないでしょうか。法華経の中に人は人を喜ばすために生きているという教えがあります。まさに私たちスタッフの仕事はこれだと思います。入居者さんのすばらしい笑顔を見るたびにスタッフの心は癒され、喜んでいただくということがどれだけ大切であるのか、また共に生きていくことはどういうことなのかという意味が少しづつ分かってきたと思います。

  本日参加して下さったご家族の方、ボランティアさんに深く感謝いたします。前述のN.Sさんが帰りの坂道で、「今日はええ天気でよかったね」 「本当気持ちよかった」 そして、「あらっ、興居島が見える」と言われたのを聴いた時、思わず感激で目頭が熱くなりました。本当に来てよかった。よし、これからもっと外出の機会を増やして、いろんな所を見ていただかなくてはと思いました。

  最後にS.Iさんに同行して下さった娘さんの言葉を残して今回のお花見の話を終わります。

  『本当にいい天気で、桜もきれいだったし、連れて行ってくれてありがとうございました。』
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