学習療法を始めました

医療法人ビハーラ藤原胃腸科 藤原壽則

 「Tさん、おはようざいます。朝の体操は終わりましたか。それではこれから、楽しく頭の体操をしましょう。」 担当スタッフが学習高齢者を笑顔で学習療法室に案内し、学習者と向かい合って小さな机を挟んで椅子に掛けます。

 今日の学習者は、Tさん(72歳・男性)とMさん(92歳・女性)です。
 学習療法は「読み書き」で始まります。学習シートに日付、時刻、名前を書いてもらいます。これにより、生活感覚を高めるとともに、コミュニケーションを充実させる糸口とします。

 「ふるさとの なまりなつかし 停車場の
         人ごみの中に そを聴きにゆく」

 テキストの石川啄木の文章を学習者とスタッフが声を合わせ、調子を取って、大きな声で読み上げます。
 学習シートの裏面に、丁寧に「春が来た」と書き込みます。

 読み書きが終わると計算です。簡単な1桁の数の加減乗除が100問。開始時間と終了時間、所要時間を記入します。解き終わると、計算ノートの回答に、1つ1つ赤字で大きい丸をつけ、採点結果を「100点」と大きく書き、「よくできました」のさくらマークを押して、「すばらしいですね、満点ですよ」と賞賛し、スタッフと高齢者がともに喜び合うことが高齢者の自信の回復につながります。結果を即時に採点し、高齢者にフィードバックすることによって、コミュニケーションも活発になり、学習が充実したものになります。

 1日の学習時間は約15ないし20分です。

  学習療法とは「音読と計算を中心とする教材を用いた学習を、学習者と指導者がコミュニケーションを取りながら行うことにより、学習者の認知機能やコミュニケーション機能、身辺自立機能などの前頭前野機能の維持・改善をはかるものである」(川島隆太)

 前頭前野は、人間の脳の30パーセントを占める巨大な領域で、1)思考、2)行動や情動の抑制、3)コミュニケーション、4)意思の決定、5)意思や注意の集中・分散、などの働きをします。

 学習療法の目的は、学習によって、認知症の進行を改善、予防し、最後まで人間として、その人らしく生きていけるようにすることです。この目的と方法論を、本人ならびに家族、学習療法スタッフが、しっかり共有することが大切です。

 学習療法は、読み書きと計算を中心とした学習により、脳機能の活性化をはかるものですから、学習教材としては、計算練習を中心とした算数・数学と、音読を中心とした国語が用いられています。認知症デイサービス・ビハーラでは教材として、「学習療法ドリル 読み書き」、「学習療法ドリル 計算」(川島隆太監修、くもん出版)を使っています。それぞれ、認知症の軽度、中程度、高度に対するものが用意されていて、学習者の能力に応じて選べるようになっています。大きな声で262文字の経を、学習者とスタッフが唱え、一節ずつ写経してゆきます。

 高齢者の能力は、非常に個人差が大きいものですから、個々の能力に合わせた学習課題が提供できる教材が必要です。各個人が達成感を味わえる学習ができるような課題の設定が必要なのです。
 現在いくつかの施設で学習療法が取り入れられ、その成果が報告されています。

 無表情であった認知症高齢者で、学習療法が進むにつれて、笑顔が認められるようになった人、笑顔がもどり、食後の片付けができるようになった人などが報告されています。また、介護施設や医療施設からは学習療法により、認知力を評価するMMSEの点数の減少が抑えられ、前頭葉の機能を評価するFAB得点が有意に増加すること、などが報告されています。

 当デイサービスセンターでも、学習療法の導入により、認知症高齢者の症状の改善、進行の抑制により、コミュニケーション能力を高め、意欲、自発性などの高揚により、認知症の高齢者たちがその人らしい生活を送れるようお手伝いができればと考えています。

参考文献 川島隆太他、痴呆に挑む くもん出版、2004年5月

 

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