「山本玄峰」

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施設長 相原あや子

 皆さん、山本玄峰(やまもとげんぽう)という方をご存知ですか? 私はつい最近までまったく知りませんでした。7月に「禅僧・山本玄峰の目」という講演を聴き、初めて知った次第です。演者は愛媛県東温市、安国寺住職浅野泰厳師でした。

 山本玄峰は、1866年(慶応2)、和歌山県の温泉地で生まれすぐに養子に出されました。一説には籠に入れられ捨てられていたのを見つけた養父が酒を吹きかけると息を吹き返した、とも言われています。養父は岡本善蔵・とみえ夫妻で子供がいませんでした。捨て子は岡本芳吉と命名されます。後に岡本夫婦に男児2人誕生しますが、芳吉は長男として大事に育てられます。大事にされ過ぎたのか、芳吉は10代で、飲む、打つ、買うの道楽を覚えたのです。
 20才で家督を譲り受け結婚しますが、その後間もなく眼病で視力が衰えてきました。京都府立大学病院に通いますが、そこで失明の宣告を受け、失意の余り自殺を試みますが死にきれません。盲目となった芳吉は家督を弟に譲り妻とは離縁、岡本家とも縁を切ります。そして目が見えるように願を立て、四国八十八ヶ所の霊場めぐりを8度することを誓います。盲目のしかも素足での霊場めぐりです。その苦労は尋常ではなかったことでしょう。1889年(明治22)24才の時の四国遍路8回目の道中、33番霊場高知県の雪蹊寺で行き倒れになっていたところを山本太玄和尚に助けられます。「こんな私でも坊さんになれるでしょうか?」「おまえは普通の坊さんにはなれない。しかし修行いかんによっては心の目が見えるようになる。」太玄和尚の感化を受け芳吉は仏門に入ります。1890年(明治23)25才の時、雪蹊寺得度出家、山本姓を継ぎ玄峰の号を受けます。

【太玄和尚が玄峰に諭した言葉】
「お坊さんは障子の糊のようなものだ。」「どんな立派な障子でも、糊が無かったならば、障子の桟(さん)と紙が離れて障子の役目をしない。しかし外から見ると、糊は有るか無いか分からない。お坊さんは、この糊のように、人の知らないところで人と人とが仲良くし、一切の物事が円満に成り立って行く様に働いてゆかねばならないのだ。」

「いくら目が見えても、障子一枚向こうは見えない。いくら耳が聞こえても、一丁先の声は聞こえない。目や耳が悪くても、心の眼が開けたならば、世界中を見渡し、天地の声を聞くことができる。葬式や法事をする坊さんにはなれなくても、心の眼が開ければ、人天の大導師になることができる。これは誰にでもできることだ。お前でもやればできる。」

 彼は学問もなく、目が見えるようになったといっても強い弱視でした。そんな彼が後に禅宗妙心寺派の管長というこの世界では最高位まで登りつめたのは、奇跡とさえ言われています。漢字の読み書きから習い始め、夜、人が眠っている間にも座禅を組み、「線香に火をともして」読書をし、お経の勉強をしました。何とか「心の目」を開かせたい一心で。

 こうして尋常ではないほどに禅を組み、心を鍛え上げて、「白隠禅師の再来」と言われるほどの逸材になりました。

 第二次世界大戦の最中、誰よりも早く「無条件降伏」で連合国に負けることを最善の策として認識し、終戦の勅語にある「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び」の文句も彼のアドバイスによるもので、また「象徴天皇制」のあり方を時の総理に提言したのも彼だということです。

 私は講演を聴いたことをきっかけに、戦前戦後に山本玄峰老師という政財界にも多大な影響を与えた人物の存在を知ることが出来ました。彼の僧侶としての原点は、盲目でしかも素足での四国遍路であろうと思われます。近々私も四国遍路を予定していますので、若かりし頃の玄峰老師の難行苦行に想いを馳せつつお参りしようと思っています。最後に老師の名言のひとつを記して終わりとします。

【玄峰老師の名言】
「性根玉を磨くのが修行じゃ。人間の性根玉は元来、清浄であるけれども、永らくの宿業によって性根玉が曇っておる。それで元のきれいな性根玉に磨き出してゆかねばならぬのじゃ。」

「性根玉が磨かれると、どうなるかといえば、自然に物事の道理が解ってくる。『天下の理に従う者は天下を保ち、天下の理を恣(ほしいまま)にする者は天下を失う』ということがあるが、物事の道理が解ってくると、一切の物が語法神となって自分を守ってくれる。又何を行っても自然に成功し、成就するようになる。人生において一番大事なことは、この、なにゆえかは知らぬが、何事も自然に成就することである。そうなるには、性根玉を磨かねばならぬのじゃ。」

「性根玉は磨くだけではいけない。性根玉を自覚し、悟らなければならない。本当に自分の性根玉が解ると、いつでも風呂から上がりたてのような、饅頭の蒸したてのような、ぽかぽかした楽しい気持ちがするものだ。」

 

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