かかりつけ医のもの忘れ外来 (3)
− 正常圧水頭症 −

医療法人ビハーラ藤原胃腸科 藤原壽則 

【症例】


H.H氏 80歳 男性
初診: 2007年6月08日
主訴: もの忘れ

【現病歴】
 2006年初め頃から歩行が不安定となり同年夏頃から杖歩行となる。筋肉の硬直、震えなどはない。この頃からもの忘れ、しまい忘れが著しくなり、同じことを何度も繰り返し言うようになり、日時を間違えるようになった。
 意欲、関心の低下がみられ、動作緩慢で昼間も傾眠傾向となることが多い。さらに尿失禁(トイレへ行く途中の失禁が多い)がみられるようになった。

【既往歴】
 70歳 前立腺がん手術

【現症】
 長女に付き添われて来院する。意識清明で、礼節は保たれ、人格、感情障害は認められない。杖歩行なるも不安定で、小歩、すり足。眼球運動、構音、顔面の表情表出に異常を認めない。
 一般血液検査、血糖、甲状腺機能、ビタミンB12などに異常を認めない。
 改訂長谷川式簡易知能評価スケール 21点
 頭部CT 側脳室の開大著明、高位円蓋部の脳溝の狭小化をみる。
 E大学精神科神経科へ紹介 脳脊髄液採取試験、画像診断など行う。

【診断】
 正常圧水頭症

 認知症の中には手術で治るものもあります。
 高齢になると歩行が不安定になり、認知症や尿失禁も伴う場合がある。その際は「手術で治る突発性正常圧水頭症」を疑います。この病気は認知症外来を訪れる60歳以上の患者の2〜5%を占め、全国で8〜9万人いると言われます。

 脳では、髄液(脳脊髄液)と呼ばれる液体が作られ、脳を囲む空間や脳内の空間(脳室)と脊髄の間を循環していて、クッションの役割を果たしている。

 正常圧水頭症では頭蓋内の髄液が徐々にたまり、脳室が拡大する。アルツハイマー病などとの識別が難しく、「年のせい」とされて見逃されることの多い病気です。

 日本正常圧水頭症研究会のガイドラインは、原因不明の歩行障害、認知症、尿失禁などがあって、画像診断で脳室拡大が認められれば、この病気を疑うよう提言しています。次いで、腰椎に針を刺し、髄液を約30ml排除するタップテストを行います。このテストで「足が軽く、歩きやすくなった」と症状が和らげば、この病気の可能性が高くなります。さらに、髄液を細い管で脳や腰椎から腹に排出するシャント術で症状が改善すれば、突発性正常圧水頭症と確定診断できます。

 症状は歩行障害の頻度が最も高く、シャント術が最も効くのも歩行障害で、80%が良くなるといわれています。尿失禁は1週間ぐらいで約50%が改善。認知症は約半数が1年かけてゆっくり改善する。最近では、体外から髄液排出量を調整するバルブを使い、効果を長続きさせることも行われています。

 

【突発性正常圧水頭症の3症状】

歩行障害 小またでよちよち歩く
  少し足が開き気味で歩く
  すり足で歩く
  転倒することがある
  うまく立ち止まれない
認知症 呼びかけに対して反応が悪くなる
  趣味などをしなくなる
  一日中ボーっとしている
尿失禁 失禁してしまう
  トイレが非常に近くなる
  尿を我慢できる時間が短くなる

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