かかりつけ医のもの忘れ外来 (7)
− うつ病と認知症 −

医療法人ビハーラ藤原胃腸科 藤原壽則 

 高齢者においては、うつ病と認知症はどちらも社会的影響の大きい疾患としてあげられ、認知症の初期症状と老年期うつ病は鑑別の困難なことがしばしばあります。一見認知症のようにみえる「うつ病」の例、「認知症」の初期症状としてうつがみられる例、うつ病が遷延化して認知症に移行する例、などその関係も様々です。

 疫学的には、アルツハイマー型認知症の40〜50%に抑うつ気分が認められ、10〜20%にうつ病が合併すると言われています。

 うつ病による認知症様の状態を「仮性認知症」と呼びます。うつ病と認知症を鑑別するためには、診察に際して顔貌や態度を観察します。うつ病患者は私たちの質問に対して投げやりに「わからない」と答える場合がしばしばあります。その他、早朝覚醒などの睡眠障害、食欲低下、憂うつ気分、意欲の低下などのうつ症状がないかどうかを注意深く問診します。そして、仮性認知症が疑われたときは、精神科医に相談します。

 両者の鑑別のポイントを下表に示してみます。

<うつ病仮性認知症と認知症の鑑別のポイント>
鑑別のポイント うつ病仮性認知症 認知症
もの忘れの自覚 ある 少ない
もの忘れに対する深刻さ ある 少ない
もの忘れに対する姿勢 誇張的 取り繕い的
気分の落ち込み ある 少ない
典型的な妄想 心気妄想
(ボケてもうだめだ)
もの盗られ妄想
(ものが盗まれた)
脳画像所見 正常 異常
抑うつ薬治療  有効 無効


以下、うつ病から認知症(アルツハイマー型認知症)へ移行した症例を紹介します。

症例

R.H氏 80歳 女性

 夫との死別を機に不安、不眠などが出現し、近医でうつ病と診断され、抗うつ薬を投与し、症状は改善した。3年後、長女との同居後再びうつ状態となり、治療を再開し約2ヶ月で改善した。この7年後に、特に誘因なく、不安、不眠、食欲不振が出現し入院となる。HDS-R22点。

診断・治療:
 入院後、抗うつ薬の投与により抑うつ症状は軽快したが、HDS-Rは19点と悪化していた。頭部MRIでは、海馬領域に中程度の萎縮を認め、大脳皮質にも側頭葉、頭頂葉などに萎縮がみられた。アルツハイマー型認知症へ移行した例と考えられます。

まとめ:
 高齢者は若年者に比べ、うつ病が慢性化する比率が高いので、治療過程で認知症に移行していく可能性を十分に配慮しなければなりません。鑑別の困難な患者さんの場合は、暫定的な診断のもとに治療を開始し、経過を追って診断を確定していくことも有用と考えられます。

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