アルツハイマー病研究会 第10回学術シンポジウム

医療法人ビハーラ藤原胃腸科 藤原 壽則 

 4月18日、アルツハイマー研究会・第10回学術シンポジウムが、東京のグランドプリンスホテル新高輪で開催された。本学術シンポジウムは2000年に第1回が開催され、以後毎年開催されている。今年は、アルツハイマー病に治療薬として塩酸ドネペジル(アリセブト)による治療が始まり、さらに介護保険が導入されて10年目にあたる年である。本学会の会員も発足の年の400人から年々多くなり現在3500人、今回の出席者が1430人である。

 午前中に開催されたプレナリーセションは「アルツハイマー病診療のスキルアップを考える−この症状をどう診るか−」。

 次々と供覧される認知症症例の病歴、検査所見などから、押しボタン方式で自分の診断を提示するもので、同じ症例に対する専門医たちの診断が大きく分かれるケースも多く、改めて認知症診断の難しさを示すものであった。

 午後はトラックセション(分科会)で、診断、症候学、治療について、「この10年とこれから」と題して、それぞれの専門研究者たちの発表があった。

 私は「認知症診療は症候学から始まる」に出席した。アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭型認知症(FTD)の症候についてそれぞれのエキスパートたちが研究結果を発表した。

 認知症診療の基本は症候学であり、全人的視点で入念な問診、診察、行動観察により認知機能障害を自分で診て、自分で評価することが大切で、認知機能検査、画像診断などはあくまでも補足的なものである。認知症スクリーニングのためMMSE(ミニメンタルステイトイグザミネイション)のEはexamination、即ち診察である。BPSD(周辺症状)についても、常にその背景を考慮しなければならない。例えば徘徊についても、見当識障害により道に迷っている状態、不安や被害妄想なども考慮してみなければならない(新潟医療福祉大学、今村徹氏)。

 レビー小体型認知症(DLB)については、認知症、軽度認知機能障害530人中、DLBは140人(26%)であった。幻視は75%(アルツハイマー型認知症では35%)に認められ、人物(小さい子供が青い服を着て走っている、など)、動物(犬、猫、ミミズなど)、非生物(火、水など)がみられた。「幻の同居人」(亡くなった人が同居している)などについては、幻視と妄想(妄想性誤認症候群)の区別が難しく、単純性人物誤認も考慮しなければならない(滋賀県立成人病センター)。2年間に診察した認知症患者358人中、DLB患者は34人(9.5%)であった。症状は、記憶障害38%、幻覚29%、パーキンソン症状21%、うつ症状18%で、会話が通じない人6%であった。問診に際しては、RBD(レム睡眠時の寝言、異常行動など)や自律神経障害(起立性低血圧など)に関しても聞いておくことが必要である(熊本大学、橋本 衡氏)。

 弁護士の住田裕子氏からは、認知症患者の遺言に関する事例が報告された。認知症の父を持つ相続人の一人が、他の相続人には、なんら連絡せずに、知人の弁護士に依頼して公正証書遺言を作成し、死後、公正証書遺言が弁護士から開示され、知らされなかった他の相続人から、遺言無効の訴えが提起されたケースで、医師、弁護士の立場からの説明があった。今後もこのようなケースは起こる場合も想定され、後見人なども含めて一応の知識を持つ必要があると考える。

 今回のシンポジウムでは、他の二つの会場の発表は聞くことができなかったが、認知症の医学は、この10年で飛躍的に進歩していると考える。

 アルツハイマー型認知症の治療に関しては、現在根治的治療の方法はないが、免疫療法などすでに一部は臨床試験が行われており、近い将来確立した根治的治療法として臨床に導入されるものと期待している。

 診断に関しても、現在認知症の病因と広く考えられている老人斑、神経原線維の変化にしても、認知症の発症の10年、20年前から認められる脳の変化であり、将来、それらを指標として、マーカー検査、画像診断などにより、認知症の発症前に診断する方向の研究も進められている。

(2009年4月20日記)

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