夢プラン実現に向けて

ルンビニー2Fユニット長 岡本将宗

 ルンビニーに、ある一組の夫婦が入居されたのはH16年4月のことです。物静かで威厳ある風格の旦那さん、その旦那さんをいつもやさしい眼差しで見守るNさん。二人は強い絆で結ばれていました。

 お母さんは脳梗塞を患い、麻痺・言語障害がありました。それゆえ思うように身体がならず、また言いたいこともなかなか相手に伝えられない… 。けれど、旦那さんにはNさんの“想い”が分かるようで、スタッフの私たちに「お母さんはこう思っとるんよ」などと代弁して伝えてくれることもしばしば。また、精神的に不安定なときがあり、その時旦那さんがそっとNさんの側に寄り添うと、穏やかな表情で安心され落ち着かれていました。Nさんは身体が不自由ながらも、食事のあと旦那さんの口周りをそっと拭いてあげたり、肩をやさしく撫でたり…。
  いつも二人寄り添い、互いに支え合っている姿はとてもほほえましいものでした。

 入居されて3年が過ぎた頃、旦那さんが肺炎で連携病院に入院、他界されました。ご家族と一緒にNさんも葬儀に参加され最期の時を一緒に過ごされました。Nさんは車椅子の為、葬祭場でのお別れになりルンビニーに戻ってきました。スタッフが声をかけると以前と同じように笑顔で答えてくださり気丈に振る舞っていましたが、寂しげな表情で遠くを見ることが多くなったように思いました。やはり、旦那さんの存在がNさんにとって大きな支えであったのは間違いありません。

 この頃からNさんは居室のベッドで過ごされる時間が多くなりましたが、スタッフはNさんの体力も考慮しながらホールで入居仲間達と過ごす時間を作るようにしています。食事に際しても嚥下が困難になり、流動食・ゼリー食など食材を工夫しながら熱量・水分を確保しています。しかし、日々Nさんが見せる安らいだ表情・不安や怒りなどの喜怒哀楽を感じる豊かな心、優しい心は以前と少しも変わっていないのです。

 ご夫婦の家は今治市にあり、お墓も慣れ親しんだこの街の小高い山の上にあります。松山からは1時間近く車に揺られなければいけません。しかも、その墓地は山を切り開いて開拓している為、敷地内も階段が多く車椅子ではなかなか登れません。その為、Nさんも墓地に行ってもお墓の前までは行けず階段の前で待機していたみたいです。その話をご家族から聞き、ぜひともNさんをお墓参りに連れて行ってあげたい。Nさんのお墓参りがしたいと言う想いを汲み取って「夢プラン」に掲げました。

 夢プランに掲げたもののなかなか実行できない日々が過ぎましたが、ついに実現の日!
 H22年10月、夢プラン決行!!決行する前にNさんの離床時間を増やし、長時間のドライブにも耐えられるように体を慣らして、準備万端。同法人のデイサービスセンター・ビハーラのリフト車を借りて、リクライニング車椅子をレンタルし、お出かけセットを準備し、ゼリーやドリンクをクーラーボックスに入れ、血圧計、体温計を持って、もちろんお墓の場所も下見しました。男性スタッフ2名、女性スタッフ1名、Nさんの計4名で、いざ出発。10時頃出発し、途中休憩もしながら12時頃、目的地に到着しました。

 下見をした場所に名字「N」だけ書かれたお墓を発見!ご家族に記入して頂いた地図と見比べると場所が違うようです。地図に書かれた場所にも同じ名字が・・・。どちらが旦那さんのお墓なのか?ご家族に電話して確認することにしました。しかし、電話は繋がらず確認することが出来ない。待っている間にもNさんの疲労が蓄積される為、時間は無駄に出来ない。その為、以前ご家族からの情報で、同じ敷地内にNさんのお父さん・お母さんのお墓があることを聞いていたのでそちらを先にお参りすることになりました。そこまで車で移動し、ご家族に記入して頂いた地図をもとに探すことに。探している途中、女性スタッフとNさんが待っているところに地元の人が通りかかって、「水ありますか?」との声をかけてくれました。墓地には水道しかなくバケツややかんが無く参拝者は、自分で持参しなければならなかったのです。地元の人が親切に2リットルのペットボトルを分けてくださったのです。本当にありがとうございました。墓地が広く、なかなかNさん家のお墓を発見することができず30分程探していると、遠くの方で「おーーーーい!見つけたよーーー!!!」、男性スタッフの声が敷地内に響いてきました。ご家族に教えて頂いた情報と同じお墓を発見することができました。スタッフ3名感動に浸ってしまいました。さっそくお線香としきみを準備し、お墓を掃除しました。Nさんにお線香を持ってもらい手を合わせてお参りをしました。スタッフも一緒に手を合わせました。Nさんの目にうっすらと涙が見えました。ここ数年の間、お墓参りに来れなかったことと、来ることが出来て嬉しいという思いが混じっているようでした。何度も手を合わせ、何度もお墓を見て、お父さんとお母さんに挨拶をしているようでした。

 次は旦那さんのお墓にお参りすることに。この時点でご家族からの連絡はまだなく、待っている時間も殆どなかったため、2つともお参りしようかと旦那さんのお墓に向かいました。車を止め、リフトを降ろして車椅子を押していこうとしたその時、「トゥルルル」、ご家族からの電話でした。間一髪間に合いました。早速、事情を話し再度お墓の場所を確認しました。そこに辿り着くには、階段が2つ、地面は砂利、通路は狭く、といったように車椅子では移動困難な場所でした。しかしこの障害も男性スタッフ2名で乗り切り、その間女性スタッフも大きな荷物を持ってやっとお墓に辿り着くことができました。お墓の前で、Nさんとスタッフはほっと安堵の表情になりました。一人ひとり違う想いがあったと思いますが、私は無事に旦那さんのお墓に辿り着けたのがなによりでした。さっそく線香としきみを準備して旦那さんが好きだったビールもお供えして手を合わせました。先ほどとは違う表情でNさんも手を合わせていました。旦那さんが亡くなられてからの三年間の想いや一緒に暮らしていた年月を振り返っているかのようでした。実際にNさんはお墓参りに行く前はベッド上で過ごされることが多かったのですが、お墓参りに行くことが決まってからは頑張って離床時間を延ばしていました。数十分から2時間まで離床時間を増やして準備をしていましたが、実際にお墓参りには5時間弱の時間がかかりました。それまでにそんな長い時間離床していたことがなかったのですが、その間Nさんは疲れた表情も見せず、頑張って無事にお墓参りすることができました。その日の夜や翌日にも疲れは殆ど見えずいつもとお変わりなく過ごされていました。

 私たちがNさんのお墓参りを夢プランに掲げてから数カ月が過ぎ、やっと実現できたのです。実行する為に、同行したスタッフ・同行していなかったスタッフ一人ひとりに、Nさんに対する想いがあり、夢プランを実行したいと願って実現することができました。決して一人の思いでは実現できなかったですし、皆の想いが同じ方向に向いて実行できた夢プランだったと思います。そしてNさんの想い・ご家族の想い・スタッフの想いを理解して、長時間のお墓参りに対しDrが許可を出してくださったこと、前日や当日にNさんの体調を確認し陰で支えてくださったこと、本当にありがとうございました。
改めてNさんが過ぎ去った日々を、ご主人を、振り返る時間をスタッフみんなもNさんと共有できたように思います。

 ご協力してくださった皆様本当にありがとうございました。

 
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