ばあちゃんの終の棲家

岡田 久仁子

 ばあちゃん(私は子どもの頃からこう呼んでいました)は7月14日、101歳で天国へと旅立ちました。突然のことで息を引き取る瞬間には間に合いませんでしたが、穏やかで眠るような表情を見ながら、最期までルンビニーで幸せに暮らせたことにあらためて感謝しました。

 ばあちゃんは90歳を超えても、近くのスーパーへ手押し車を押しながらひとりで買い物にも行く元気な人でした。年齢に似合わずフライドポテトやフライドチキン、カレーライスなどが大好物で、お惣菜売り場で好きなものを買うのが楽しみのひとつでした。車の多い通りを通らないといけないこともあり、「はじめてのおつかい」のように、母が後ろからこっそりつけて行って安全を確認したこともありました。
  そんなばあちゃんが同じお惣菜を買ってきては棚にしまい、それを忘れてまた買ってきては棚にしまう。棚にいっぱいになったお惣菜の日が過ぎてしまったものから片付けながら、しっかりしていたばあちゃんも歳相応に物忘れするようになったことを感じていました。そのころから体力も衰えはじめ、大好きなお買い物に通う回数も減ってきました。また、ひとりでの日常生活も困難になってきました。
  毎日の生活は食事からおトイレ、お風呂に至るまで、母の介助が必要になりました。母は娘の私の目から見ても、とても頑張っていたと思います。母の生い立ちにも関係していると思いますが、母はばあちゃんの本当の娘ではなく、戦争で実の両親を亡くし、実父の兄であったじいちゃんに引き取られました。母は育ててもらったことへの感謝と、実の母親ではないからこそ実の母親にやってあげる以上のことをしなければとの気負いもあったのだと思います。完璧にやろうとするがために、母の負担はどんどん大きくなっていました。疲れた母がほんの少し力の入れ方を間違えて介助すると、ばあちゃんが「痛い!」と大きな声を出すこともありました。

 このままでは、母も疲れてばあちゃんに優しくできなくなるかもしれない、ばあちゃんも自分の思うようにならないことにイライライし、母にあたるようになるかもしれない。そう思った私は、ルンビニーの責任者のかたにばあちゃんのことを相談させてもらいました。と言うのも、このホームページの作成を仕事として請けていましたので、約8年前から毎月必ずルンビニーやアショカ、デイサービスビハーラにはホームページ更新の打ち合わせに伺っており、ルンビニーは開設当時からずっと見てきていました。
  スタッフさんたちの入居者の方々への接し方はやさしく、またお年寄りに分かりやすいように方言そのままにゆっくりと話しかけている様子、入居者のみなさんの楽しそうな笑顔、本当にいいところだとほのぼのとした気持ちで通っていたものです。ばあちゃんもここならきっと大事にしてもらえる、と確信していました。

 母には自分で介護しないということに幾分の抵抗があったようですが、私の勧めを受け、ルンビニーでばあちゃんはお世話になることになりました。はじめは慣れ親しんだ家を離れルンビニーに来たことにばあちゃんも戸惑ったようで、「帰る」、「帰りたい」と言っているとスタッフさんから聞いたときには、私たちの判断は間違っていたのかもとも思いました。もし、ずっと「帰りたい」と言い続けるようであれば、やっぱり家に連れて帰ってあげよう、と母と話したこともありました。幸いなことに、ルンビニーでの生活にも慣れ、「帰りたい」という気持ちも徐々に薄らいでいったようです。

 ルンビニーに入ってからのばあちゃんには、驚いたり、笑わせてもらったりすることがたくさんありました。家にいた頃もNHKの歌謡オンステージをテレビのボリュームをいっぱいにまであげて見ていましたが、ばあちゃんが歌っているところはあまり見たことがありませんでした。ルンビニーでは「歌姫」とまで呼んでいただいたくらい、歌を歌うことが多かったようです。十八番は「南国土佐を後にして」、「汽車ぽっぽ」でしょうか。汽車ぽっぽは1番だけでなく、2番、3番とソラで歌える(歌詞を覚えている)のにはびっくりしました。寝て過ごすことが多くなってからも、夜中に突然歌いだし、夜勤のスタッフさんには「夜間オンステージでしたよ」と教えてもらったり。
  また、手先は上手に動かすことができたので食事の盛り付けの手伝いをすると、合間合間でこっそり味見をしているらしいことや、スタッフさんの手にチュッとキスをすることなど、スタッフさんからユーモアを交えながら聞かせてもらう日常の様子も聞いていてとても楽しいものでした。
  明るい部屋の窓辺には、お誕生日や敬老の日などにプレゼントした鉢植えの花を大事に育ててくれており、そんな細かなところにもルンビニーの心配りを感じていました。

 働き者でずっと働き続けてきたばあちゃんが最期のときをルンビニーでのんびりと穏やかに過ごせたことはばあちゃんにとっても、そして私たち家族にとっても幸せなことでした。
藤原先生をはじめ、ルンビニーのスタッフのみなさんには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

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