思い出を語り合う

グループホームルンビニー 介護職員 竹内智哉

 僕にとってTさんは、ルンビニーで働くようになって、一番思い出に残っている入居者です。

 ここに来て間もない僕のそばに来られて、緊張をほぐすようにいつも笑顔で話しかけてくれ、毎日のように一緒に散歩に行っていました。話すことも歌うことも好きな方で、たくさんの歌を教えていただきました。

 そんなTさんが、今年の春、93歳で亡くなられました。

 外に出るのが好きな方で、自分で車椅子を動かしながら庭の花を眺め、ドライブの時には「行きたいです」と手を挙げて立候補、特に海が好きで「泳ぎたいです」といつも言われていました。少食のTさんですが、外食になるとスタッフが驚く程食べられました。

 3年前の日帰り宮島旅行では、ルンビニーの入居者仲間と家族の方も参加され、一緒に厳島観光を楽しまれていました。その時の嬉しそうな笑顔が僕のいつも思い出すTさんの姿です。

 その後、僕は1階から2階に異動になり、Tさんと会える時間は減っていきましたが、1階に行くとよく笑顔で手を差し伸べてくれました。そのTさんが、段々と食事の量が少なくなり、自分で車椅子を動かすことも減り、ベッドに横になる時間が多くなってきました。大好きだった外出や入浴の回数も減り、話をすることも少なくなってきました。そして、体に負担をかけない介助が必要になったTさんが、僕のいる2階に来られることになりました。その時には、また一緒に過ごせる嬉しさよりも、以前のような明るい笑顔が少なくなってしまったことを寂しく思っていました。

 外に散歩に行き、料理や洗濯物たたみなど、できることは自分でされていたTさん、しかし段々と体が思うように動かなくなり、これから先どうなるのだろうかと不安に思っているのでしょう。顔なじみで、Tさんが好きだったこと、苦手だったこと、楽しかったこと、辛かったこと・・・これまでの4年間、思い出を共有してきた自分だからこそTさんの不安を少しでも和らげられるのではないか、その為に何ができるのか、スタッフ・家族の方とも話し合いました。

 一緒に散歩に行き、好きな歌を歌いながら花を眺めたり、外出では体に負担がかからないように、けれど楽しんでもらえるように、かつてTさんから聞いていた好きな場所や思い出の場所を訪れたりもしました。しかし、春が近づく頃、Tさんの体調が優れないものになってきました。

 寝たきりになり、大好きな外出が難しくなってきたTさんに、好きだった桜の花を見せてあげたいと、スタッフ・家族の方とも話し合い、庭に咲いている桜の花を見に、布団のまま外に出て、みんなとお花見をしました。目を大きく見開き、静かに桜を眺められていました。 日毎に笑顔もあまり見られなくなりましたが、家族の方が来られたときは目を開けられ、安らいだ表情をされました。いつも家族の心配をされていた方でしたから、家族の方を安心させるように、そして、心の準備をする時間を作ってくれているように思えました。そして花見の日からひと月ほどしてTさんは亡くなられました。

 ルンビニーでTさんは楽しく日々を過ごせていたのか?もう少しTさんのために出来ることがあったのではないのか?そう考えるのは、精一杯生きられたTさんに対して失礼なのかもしれません。しかし、いくら考えてもTさんはもう答えてくれません。

 告別式でTさんの息子さんからスタッフに向けて言葉をいただきました。
『母が趣味の生花やコーラスを辞めてから認知症を発症しました。物忘れが増え、出来ることが減っていく中、グループホームのみなさんが母のために何ができるのか最期まで考え、行ってくれました。本当にありがとうございました』
 この言葉を聞きながら、自分たちが行ってきたことが間違ってはいなかったのではと、救われる思いがして涙が出ました。

 介護では人と人との関わりが大切なものだと思います。楽しかったことも、辛かったことも、一緒に過ごせたことが思い出になり、その積み重ねがお互いの信頼関係を作っていくものだと思います。その人が最後までここにいたいと思える場所を作りたい、介助が必要になった時にどうすれば馴染みの環境で、これまでと同じようにその人らしく過ごせるのか、それを考えるのが自分たちだと思います。

 入居者の方の思い出を入居者の方々と語り合える、そんな場所を作っていきたいと思います。

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